古典落語 時そば
はじめに
与太郎
いつの世にも間が抜けた人というのはいるもので。
人が言うことを真に受けて行動に移し、
的外れな事態を招く。
でもそれでいて明るくまっすぐで純粋な人。
天然とも言われるタイプでしょうか。
こういう人というのは
なんともお茶目で憎めないものですよね。
落語の世界ではこのようなタイプの人のことを
【与太郎】と呼ぶことが多いです。
その中でも有名な『時そば』を今回は紹介したいと思います。
時そば
あらすじ
それを見ていた与太郎。自分もその手を使ってみようと明くる日蕎麦屋に向かい、同じ事をしようとするものの上手くいきません。お勘定でも「今何刻だい」「今4刻でぇ」と返され5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、10つ、11つ、12つ、13つ、14つ、15つ、16つ。と一泡吹かされてしまうのでした。
真面目に解説
初客:威勢のいい男
初めの客の頭のキレること詐欺師の如し、ですね。
詐欺師がよく使う手法ですが、
早口で捲したてるように話すというのは
相手の思考を停止させる効果があるといいます。
また相手から褒められると
いくら初対面であろうが好意をもつものです。
自分を気分良くさせてくれる人を人は大切にします。
商売人といえどこの人は(自分に利益をもたらす)いい人だ、
「おまけしてあげたい」という気持ちが湧くことは自然の摂理なのです。
それらの後付けがあり自分に自信があったからこそ
堂々と成し遂げられた行動だったと考えられるのです。
これでは与太郎がうわべだけ真似しても上手く行かない訳です。
江戸の時間
そもそも9刻に行かないから悪いんだ、
4刻なんて早い時間に行くから一泡食わされるんだ
と思いませんか?
その答えが江戸の時間の呼び方にあったのです。
現代を生きる私たちは1時2時3時4時5時と
数を増やして時間を理解しています。
しかし、江戸時代では【不定時法】と呼ばれる時刻制度でした。
九つから四つまで下がるとまた九つに戻るというもの。
ゆえに
初客 :九つ=PM11:00~AM1:00
与太郎:四つ=PM9:00~PM11:00
に蕎麦屋に行ったという事です。
時計が普及していなかった時代、
与太郎はPM11:00前くらいに逸る気持ちを抑えつつ蕎麦屋を探し
店主とのトークも心ここにあらず状態で
急いでお会計をしてしまったものと見受けられるのです。
ホント、可愛いですね。
お金の価値
今回、蕎麦の金額は16文でした。
では当時の16文はいくらでしょうか?
だいたい1文が15〜30円くらいなので、
16文だと240円〜480円です。
結構いい値段しててびっくりしたものです。
計算してみると
初客 :1文得=だいたい20円得↑
与太郎:4文損=だいたい80円損↓
したということになるのです。
今でいうと大したことない額ですが、
昔の人からすると痛手だったのかもしれません。
勝手に考察
個人的に与太郎が何故初めの客と店主のやり取りを見ていたのか不思議に思いました。
もし、初客が本当に頭のキレるすごい人だったら
その一連のやり取りをパフォーマンスとして見せていたのではないかと
考えました。
また与太郎が見つけた蕎麦屋の味が売り物と思えない程不味かったことから
詐欺を働き儲けを得ているのではないかという
推論に至りました。
そうすれば5文(約100円)の得になりますからね。
与太郎の愚かさを笑う話が
一転して計算ずくの頭脳犯の話になり変わってしまいましたね。
まぁ、憶測なのであしからず。
おわりに
天然と呼ばれたことがある身からすると
与太郎がいつも他人事ではない気がするものです。
しかし
バカにされがちな与太郎の
まっすぐなところ、
前向きなところ、
人を笑顔にさせるところは
時代を問わずすごいなぁと思えるものです。
人間関係において一種のスパイス的存在である与太郎に
注目して落語を読んでみてはいかがでしょうか。
さぁ、次は何を読もうかなぁ。